生前対策の基本と進め方
- ゆかり事務所

- 6月11日
- 読了時間: 9分
今回は「生前対策の基本と進め方」について、できるだけわかりやすくお話ししたいと思います。
相続や遺言、不動産や預貯金・有価証券の財産の承継、認知症に罹患した後の財産管理など、将来のことを考えると不安になることも多いですよね。とはいえ、不動産のオーナーやそのご家族にとって、相続の問題は避けて通れない問題です。必要なのは生前対策をしっかりしておくことです。この記事では、生前対策の基本から具体的な進め方まで、丁寧に解説していきます。
なお、ここでは相続に備えた対策に加えて、認知症リスクに関する対策も含めて、広い意味での「生前対策」をご紹介していきたいと思います。
生前対策の基本
生前対策というのは、将来の相続や、認知症等に罹患して意思表示がうまくいかなくなったときの財産管理に備えて、元気なうちに準備を進めることです。こうした対策を施しておくことにより、ご家族がスムーズに財産を引き継ぎ、管理・運用等していくことができるようになります。
どのような手続きを選択し、どのような形で進めていくのかということは事案に応じて検討することになりますが、検討すべき代表的な対策としては、以下のようなものがあります。
遺言書の作成
生前対策の基本中の基本は、遺言の作成です。自分の意思を明確に残し、必要な内容を伝えるために遺言書を作成します。特に、遺産が多い場合や不動産を所有している場合、相続関係が複雑な場合、また推定相続人に争いがありそうな場合は、公正証書遺言で作成しておくと、実現性の高い遺言となるため安心です。
財産の整理と遺産分割方法の検討
不動産や預貯金、株式など、ご自身の所有する財産の棚卸しを行います。主な財産を全てリストアップし、何を誰に遺したいか、どのように分けるかを考えます。不動産の権利証や預貯金の通帳、有価証券の書類や保険証券を集めて、ご自身の財産の把握を行いましょう。
認知症対策の検討
判断能力が低下して意思表示ができなくなった場合、明確な意思表示を要する契約などの法律行為や、不動産・預貯金等のご自身の財産の使用・処分が行えなくなる可能性があります。このような状況になったときに備えて、認知症対策を適切に行っておくことが重要です。具体的には、意思表示が行えなくなった場合の財産管理者をあらかじめ選んでおけるしくみとして、任意後見制度の利用や家族信託契約の締結といった選択肢があります。何を選んだらよいかはケースバイケースですが、制度の内容を把握し、ご自身にあった制度の利用を検討します。
相続税対策
財産を評価し、場合によっては財産の売却や取得、贈与等を行うことで、相続税の負担を軽減する方法を考えます。
これらの準備を進めることで、将来のトラブルを防ぎ、家族の負担を減らすことができます。

生前対策・認知症対策具体例
それでは具体的にどのような生前対策が考えられるでしょうか。
代表的な生前対策の方法についてご紹介します。
公正証書遺言
何はともあれ、生前対策といえば遺言です。誰にとっても必要ですが、特に不動産をお持ちの方であれば必ず準備しておきたいのが、公正証書で作成しておく「公正証書遺言」です。遺言を公正証書で作成しておけば、改ざんや紛失の恐れもなく、また法的にもしっかりした内容のものが作成できるので、安心です。
死後事務委任契約
遺言は財産の分け方を決めておくものですが、実は遺言だけではカバーできない相続手続があります。特に相続人がいない、または疎遠なお一人様がお亡くなりになった場合、遺言があれば財産の分配はできますが、葬儀や納骨、病院や施設への支払い、賃貸の解約、水道光熱費等各種契約の解約などは誰もすることができないといった状況になります。これらのいわゆる「死後事務」をお願いする契約が死後事務委任契約です。
任意後見契約
認知症対策として代表的なものがこの「任意後見契約」です。認知症等で判断能力がなくなる前に、信頼できる方と締結し、判断能力喪失後に後見人として財産管理等を任せる、という契約です。この契約は公正証書で行い、その内容は登記され、法務局で管理されます。
財産管理契約
意思表示はしっかりできるけれども、足が悪くて金融機関まで出向くのが大変だったり、管理している賃貸物件の収支計算が億劫だったりして、ご自身の資産管理・運用を信頼できる人にお願いしたいという場合の契約です。
この財産管理契約を任意後見契約と一緒に締結して、通常は財産管理をお願いしたまま、判断能力を喪失した場合に任意後見契約に移行する「移行型任意後見契約」を締結することも多いです。
見守り契約
普段は元気だけれども一人暮らしで少し心もとない暮らしをされている方に、月に数回、お電話や訪問等でその暮らしぶりや困ったことはないかを確認してくれるという契約です。
以上が、生前対策5点セット、などといわれる代表的なものです。
この他にも、それぞれのご事情に応じて、ふさわしい方法を検討します。
具体的な生前対策のケース紹介
ここでは、実際にあった生前対策の事例の中から参考になりそうなケースをいくつか、簡単にご紹介します。
状況に応じて、必要な対策を施しておくだけで、争いが回避できることもあります。具体例を見て、近いケースがあるかどうか、検討してみてください。
事例1:遺言書作成で家族間トラブルを回避
複数の子どもがいるため遺産分割で揉めるのを心配していた依頼者様。まずは遺産の棚卸から行っていただくことにして、ご自身の財産をリスト化して、相続人や遺贈先も含め、誰に何を遺したいのか、希望をまとめていただきました。その際、遺留分にも配慮して、これまでそれぞれのお子様たちに施してきた学費や婚姻費用、面倒を見てくれた内容などを洗い出し、推定相続人の方々の間でなるべく不公平感が出ないような内容の遺言を、ご本人と共に検討しました。その内容で公正証書遺言を作成し、財産の分け方を明確にしました。結果として、相続発生後も家族間のトラブルがなく、円満に手続きが進みました。
事例2:夫が不動産を妻に生前贈与
お子様がいないご夫婦。夫は持病が進み、身の回りのことは自分で出来るものの、少し不安なことがありました。夫の推定相続人は妻の他、今ではあまり連絡も取らなくなり疎遠となった甥・姪が複数人いました。ご自宅のマンションは夫の単独所有でしたが、夫に万が一のことがあった場合、妻は夫でさえほとんど話すこともない甥や姪と遺産分割協議を行わなければならなくなります。他方、妻は一人っ子で、ご両親も他界されているため、妻の推定相続人は夫のみです。
そこで二人で話し合い、贈与税の配偶者控除を利用して、ご自宅の所有権を妻に贈与により移転することにしました。また、その他の財産についても、夫の財産は全て妻が相続する旨の遺言を併せて作成しました。
これにより、夫に万一のことが起こっても、不動産の遺産分割は行わずに済みますし、銀行預金の解約もスムーズに行うことができます。
事例3:移行型任意後見制度の利用で安心の財産管理
いくつか賃貸アパートをお持ちのお母様。判断能力には問題はないものの、足が悪く自分で金融機関等に足を運んでまとまったお金の出し入れや振込がしづらくなってきたことをご心配されていました。しっかりとした意思表示が可能なうちに、所有する賃貸アパートやその賃料が入る銀行口座の管理を、同居しているご自身の娘様に任せたい、とのご希望がありました。そこで、財産管理を娘様にお願いしつつ、万が一、認知症などに罹患して判断能力がなくなってしまったときにも娘様が任意後見人として活動できる、「移行型任意後見契約」を締結することにしました。
お母様の実質的な負担も軽減でき、また、財産管理について安心を得ることもできました。
これらの事例からもわかるように、多様なニーズに対応可能な選択肢を検討し、もっともふさわしい生前対策を検討することで、負担軽減や安心を手に入れることができます。自分に合った方法を専門家と一緒に考えることが大切です。

気をつけたいポイント
生前対策の相談をする際に、注意しておきたいポイントをまとめてみます。
信頼できる専門家を選ぶ
司法書士や弁護士、税理士など、遺産承継に係る専門知識を持つ専門職に相談しましょう。そして、疑問点があったらその都度、質問するなどして不明な点を解消するようにしましょう。専門家はそれぞれの業際の範囲で出来る限り丁寧に説明してくれるはずです。
家族とも話し合う
生前対策をすすめるには家族の理解と協力が不可欠です。相談前後に話し合いをして、可能な限りざっくばらんにお話しする機会をもつと良いでしょう。全員と話し合うのが難しい場合でも、可能な範囲で家族内で相談・検討できるようにしておくのが理想です。
書類は大切に保管する
遺言書や契約書、不動産の権利証などの重要書類は紛失しないように管理しましょう。公正証書遺言なら公証役場で保管されます。ただし、一般的には遺言書は銀行などの貸金庫に入れない方がいいです。貸金庫を開扉する権限について遺言書に記載されていることも多く、遺言がない場合、相続人全員の合意がない限り開けられなくなるといった事態が生じるからです。
定期的な見直しを心がける
一旦、遺言書などを作成しても、家族構成や財産状況は変わるものです。数年ごとに遺言書や生前対策で行った内容をチェックして、必要に応じて修正・改良を加えるなど、更新することも大切です。
生前対策の実施に向けて
生前対策は、将来の不安を減らし、家族の負担を軽くする大切な準備です。早めに準備・相談を始めることで、余裕を持って計画を立てられます。
この記事を読んで、少しでも生前対策に興味を持っていただけたら嬉しいです。遺産承継について気になることがあったら、まずは専門家に相談してみることから始めてみませんか?あなたの大切な財産と家族のために、今できることを一緒に考えていきましょう。
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