自筆証書遺言という簡易な様式でありながら、法務局に保管することで様々なメリットが得られる自筆証書遺言保管制度について、興味を持つ方が増えています。
今回は、この制度の特徴と、利用する際に知っておきたい注意点などについてご紹介したいと思います。
自筆証書遺言とは
まず、遺言にはいくつかの種類がありますが、代表的なものとしては、公正証書遺言と自筆証書遺言があります。
公正証書遺言は、公証役場で作成してもらう遺言で、内容の不備や紛失・改ざん等のおそれが少なく、遺言内容の実効性もある程度確保できる方式で、遺産の多い方や争いが生じる危険がある方に最もお勧めしたい方式です。ただ、専門家にサポートを依頼した場合の報酬や、公証人の作成手数料等、ある程度費用がかかります。
一方、自筆証書遺言は、誰にも知られずに自分ひとりで作成することが可能で、基本的には費用がかからないという利点があります。
とはいえ、従来、自筆証書遺言は、原則としてその内容の全てを原則として自筆で書かなければならず、財産に不動産や金融機関の口座等が複数ある場合、かなり労力がかかり割と大変でした。そして、自筆証書遺言の場合、保管している場所は、遺言を書いた人しか知らないことも多く、せっかく作ったのに、その存在を知られることなく相続手続が進んでしまう、などということもよくありました。また、相続が開始すると、「検認」という裁判所への申立ての手続を要するため、結果的に相続人全員に通知が行き、その関与を要することにもなります。
法務局による自筆証書遺言書保管制度
近年、自筆証書遺言の緩和規定が創設されるとともに、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度が新設されました。不動産の表記や金融機関の表記など、自筆で書くとかなり面倒な情報を、登記事項証明書や通帳のコピーの添付で済ませることができるので、遺言を書く人の労力が大幅に軽減されます。
また、作成した遺言は、法務局に保管の申請をして、保管証を受け取り、それを家族に教えておけば、中身を知られないまま保管してもらうことができますし、遺言の改ざんや紛失のおそれなく、安心して遺言を管理しておくことができます。そして何より、相続開始の際に、家庭裁判所の検認が不要になるという大きなメリットがあります。この制度は遺言書一通につき3,900円で利用することができます。
遺言保管制度利用の際の注意点
それでは、遺言書保管制度があれば、どんなケースにおいても万全な対策といえるか、というと、そういうことでもないと思います。
法務局が保管するといっても、自筆証書遺言の形式的な有効性のみが審査されるだけで、その内容までを法務局で逐一チェックするわけではありません。遺言者本人が自筆で作成するため、公正証書遺言と比べると、内容面の精査はどうしても甘くなりがちです。財産の全てを相続人のうちの特定の人に相続させるような、比較的単純な内容であれば自筆証書でも作成は難しくはないですが、複数の相続人に遺したり、遺産の換価が必要だったりする少し複雑な内容の遺言を作成する場合には、やはり遺言内容の検討や作成には、専門家を関与させた方が安心です。
その点、公正証書遺言は、その内容を法曹等出身の公証人が作成するため、形式や内容の確実性は、自筆証書遺言よりも相当高く、実効性の面でも安心といえるでしょう。
遺言保管制度の実効性を確保するために
遺言者が生前に、遺言を作成したという事実やその内容を、一部の相続人にしか知らせていなかったり、または誰にも知らせていなかったりした場合、せっかく作成した遺言の内容が実行されることは困難になります。
そこで、遺言保管制度には「遺言者が指定した方への通知」という制度があります。遺言者がこの通知制度を希望した場合には、法務局において、戸籍の担当部局と連携して遺言書保管官が遺言者の死亡の事実を確認した場合に、遺言に記載された受遺者(遺産をもらう人)など遺言者が指定した方に、遺言を保管している旨をお知らせするという制度です。
この制度を有効に利用するためには、まず、遺言において「遺言執行者」という遺言を実現するために動いてくれる人を指定しておくことが重要です。そして、その「遺言執行者」に指定した人に死亡後のお知らせが行くように、指定しておくと、遺言の実効性が高まることになります。
遺言執行者についてはこちら。
大切なのは、遺言者本人が、その意思を明確にして、実効性のある内容の遺言を作成することです。そのためには、専門家のサポートを受けながら、どのような形式で遺言を作成するのかしっかり検討して利用することをおすすめします。
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